通勤で使っている歩道橋の上から川沿いの桜並木がよく見えます。今年の桜はなんだかちょっと地味な色に見えるんだけど気のせいでしょうか。
さくらといえば『男はつらいよ』ですね(無理やり……)世界が閉塞感に包まれているこんな時こそ寅さんを見よう!
「寅さん? だっさー」とか思っていた私が寅さんを見始めたきっかけについてお話しましょう。
当時私はシナリオを書くための学校に通っていたのですが、ある時「自分の好きな映画のシナリオの構成について考察・レポートする」みたいな課題があったのです。私はその少し前に見ていて大好きだった、周防正行監督の『Shall we ダンス?』を取り上げようと決めました。まだネットの動画配信サービスとかもなかった頃で、ちょうどテレビの映画番組で『Shall~』が放映されたのか、もしくはツタヤでDVDを借りたのか、よくは覚えていませんが、さあ見ようと気合を入れてテレビのチャンネルをピコピコ変えていたところ、あるチャンネルで別の邦画を流していました。
アパートの小さなダイニングテーブルで両親と小学生の男の子がご飯を食べながら話をしています。学校の話や友達の話、何の変哲もない日常の光景。お父さんはもぐもぐしながら醤油に手を伸ばしたりしています。
この平凡な家族に私の目は釘付けに! そして気がつけば『Shall we~』のことも忘れて10分くらい、なんら特筆すべきこともない彼らの会話に耳を傾け続けていたのです。私はとてもびっくりしました。なぜあんなにも引き込まれたのでしょうか。
何なんだ、この映画! それが『男はつらいよ』だったのです。いうまでもなくそのシーンは寅さんの妹、さくらと夫の博、息子の満男の晩ご飯です。主人公不在の、ただのある日の晩ご飯シーンにこうも引き込まれるなんて……それまでおっちゃんたちがステテコ姿で寝転んで見るダサいホームコメディと思っていたけど、違ったのか! とすごい衝撃をうけました。48作まで続いた人気シリーズというのはこういうことなのだろうか、これは見ない訳にはいかないと思ったのが始まりです(ちなみに、課題は予定通り『Shall we ダンス?』で仕上げました)
その後ネットのDVDレンタルサービスで全48作を2巡くらい見て、DVDマガジンで全巻を揃えました。今、どれくらい寅さんが好きかというと「渥美さんが亡くなってからファンになってよかった~」とほっとしているくらい好きです。もしファンになってから亡くなっていたら、間違いなく2年くらい「寅ロス」になっていたでしょうから。
かつての私のように「寅さん? だっさー」と食わず嫌いの方はぜひこの機会に何作か見てみてください。初めて寅さんを見る方にお薦めなのは10・11・17・20・29作あたりでしょうか(私が最も好きな5作という意味ではありません)それから、今までに何本か寅さんを見ている方はぜひ時系列で見直すことをお薦めします。連続シリーズになることを想定していなかった1作目ではまだ曖昧だった寅さんのキャラがだんだんと整理されてリアルな人間像になっていく過程とか、見ている自分が家族の一員になっておいちゃん・おばちゃんたちと共に寅さんの言動に泣き笑いする感覚とか、タコ社長はこういう時こういうことを言うよな、みたいなのがだんだんわかってくる喜びとか、時系列で見ることで得られるものは計り知れないのです。