「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」
おじいさんが頑張って目的を達成してよかったよかったの心温まるヒューマンコメディ(こういうのも嫌いじゃない)だと思って観に行ったら、意外にもシリアスで重いモチーフが散りばめられていてビックリ。多少ご都合主義なところもあるけど(絶対素人が達成するのは無理やろっ、とか)それは映画の場合許される。リアルでなくてもリアリティがあればよいのだ。
主人公のハロルド・フライもよかったけど、特筆すべきは奥さんのモーリーン。言いたいこともうまく言えず、破天荒な夫に振り回されながらも愛情深く見守る姿に、長年連れ添った同士としての器の大きさを感じた。気まぐれに応援したり応援しなかったりするマスコミや一般市民とは大違い。
終盤で登場人物たちがガラスを反射した温かな光につつまれている様子が印象的。このシーンが制作者の言いたかったことをとてもうまく表現している。
それにしてもこの映画、うまいこと邦題つけたなあ。
「ホールドオーバーズ・置いてけぼりのホリディ」
ファーストシーンからまるで絵本の中にいるような美しい風景が描かれ、いやが上にも高まる期待。1970年から71年にかけてのアメリカのクリスマス休暇が舞台。映画「アメリカン・グラフィティ」や「スタンド・バイ・ミー」などをほうふつとさせる。登場人物が善人と悪人に結構はっきり分けられていて、このわかりやすさは大好き。
人生は孤独だったり不完全だったりしてぜんぜん構わないんだ、ということを温かい目ではなくとてもとてもクールでシビアな目で描いているところがものすごくよかった。そして、濃密なひとときを共有した相手と別れるということさえとてもクールに描かれていた。それがかえって、短い時間ではあったけれど、人生において大きな大切な交流だったのだと感じさせてくれる。
ここでも、学生寮の料理長メアリーが、時々弱さも見せるけれど頼りになる素晴らしい女性として描かれていて秀逸。あと余計なことだけど、アメリカの70年代のボーリング場のボールって小さすぎへんか?
音楽はもちろん、画面の形(最近の横長ではない画面)、登場人物の姿格好、エンディングクレジットの出し方などで70年代らしさを演出していたが、エンディングの最期に完全にやられました私は……(何のこと? と思う人はぜひ劇場へ)
人生において最大の価値観は「クールか、そうでないか」だと強く思う。この場合のクールとは、いろんな意味での「カッコよさ」。「カッコ悪い」行いの反対だと考えればわかりやすい。
間違いなく2024年マイベスト1。いやここ数年のマイベスト1。
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kirokuya (木曜日, 11 7月 2024 02:31)
*ハロルド·フライ まさかの旅立ち
予告編で決めて観に行きました。
英国人の誇り(彼にとってネクタイを締めることもそのひとつ)をもった老紳士が恩人への礼を伝える為に、800㎞の道のりを、多くの人に支えられながら完走(歩)するハートウォーミングなロードムービーでした。
道程、回想シーン、美しい街並み、牧歌的な田舎の風景を差し込みながら、見応えのある作品に仕上げた監督の力量と、夫婦役の俳優さんの演技力に感服、感動しました。
途中から参加のワンコ、雄犬だったのでしょうね、ハロルドから女の子に主をかえるシーンと赤いTシャツ軍団には失笑しました。
ガラス玉が太陽光線を反射して、登場人物を繋ぐグランドファナーレは秀逸。原題 pilhgrimage(巡礼) を自分風に(懺悔と再生)と訳したら物語が腑に落ちてきた。そしてオーラス、老夫婦が手を携え、新たな巡礼が始まるのだろうと善良な解釈をした。
身につまされ、共鳴することの多い秀作でした。
雛澪 (木曜日, 11 7月 2024 15:14)
ハロルド・フライ よい感想を持たれたようでよかったです。
映画って本当にいいもんですねえ~(昭和の名言)
kirokuya (金曜日, 12 7月 2024 03:14)
ブログ筆者さんのベストワンならばと観に行った。
*ホールドオーバーズ………
堅物ゆえに嫌われている古株の高校教師とスネ者で直情すぎるゆえに嫌われているその教え子のクリスマス休暇の出来事を扱っただけの物語なのに、冒頭からグイグイと引きこまれ、アッという間に終わり。エンドロール中も、劇場照明がついてからも、心地よい余韻が残り、帰路も幸せな気分に浸っていました。
舞台の高校のこと、ボストンの地域性、ボーリングのボールが小さいことなど調べようと思いましたが、些末なことがどうでもよくなりました。
酒が小道具として、ええ仕事してました。ジムビーム(安価なバーボンウイスキー)とルイ13世(高価なブランデー)。ラストシーンで、身を挺して教え子を守ったがために学校を追われた
教師が、ルイ13世を口に含み吐き出すカットは圧巻、爽快、ブラボー、COOL!でした。
名作とは、年を経て冠せられるものだが、この映画はすでに名作。私のわずかな映画鑑賞履歴においても、上位に食い込んできた。
いや~映画って
本当にいいもんですね!
雛澪 (金曜日, 12 7月 2024 23:04)
もう観られたのですね!
私がやられたエンディングの最後、わかってもらえたかな~?
kirokuya (土曜日, 13 7月 2024 01:40)
気がつきませんでした。少し長い空白があったのが、気になりましたが…
ここはあえて解を出さないでください。無茶苦茶気になるけど、今後につなぎます。
kirokuya (土曜日, 13 7月 2024 03:30)
閑話休題。さてここで…
昭和な映画用語、人名、事柄など…
ロードショー、シネラマスコープ、封切り、もぎり、二番館、二本立て、水野晴郎、淀川長治、さよならさよならさよなら、特別出演、友情出演、総天然色、パートカラー、エエもんワルもん、福本清三、オールナイト上映、シベ超、銀幕の主、白いカバーの指定席、アメリカンニューシネマ、テレビ名画座、大蔵映画、五社協定、スターさん、大部屋さん……きりがないので今日はこのへんで。
雛澪 (日曜日, 14 7月 2024 00:00)
シ……シベ超(笑)
昭和の頃は毎晩のようにテレビで洋画劇場をしてましたね。
kirokuya (日曜日, 14 7月 2024 02:17)
よく観てました。映画解説に荻昌弘さんて方もいらっしゃいましたね。
学校帰りの15時からもやってたんですよ。こちらの方は名作揃いでした。
*自転車泥棒 *にんじん ……
さて、前コメントの続き…
活弁、仕出し、マカロニウェスタン、ウチトラ、北大路の御大
で、30になりました。
雛澪さん、読者の方、いくつ判りますか?
25以上わかる→コテコテの昭和人
20以上わかる→かなりの映画通
15以上わかる→普通の映画通
10以上わかる→映画ファン
5以上わかる→映画も観ます
0~4わかる→映画観ません
たまにはこんなんもどう!?
雛澪 (水曜日, 17 7月 2024 09:39)
19点でした。私もまだまだやな~。
自分ではコテコテの昭和人、そして「最後の硬派」昭和30年代のつもりですが。
kirokuya (木曜日, 18 7月 2024 00:59)
昭和人、「硬派」というのは常々感じています(笑)
kirokuya (日曜日, 21 7月 2024 02:35)
30語の内、検索してもでてこないであろう言葉。
銀幕の主:
片町線(現学研都市線)鴫野にあったシギノ大劇、当時は普通にあった下町の映画館。そこの支配人さんの話をまとめます。
昭和30年代~40年代初め頃は映画産業が活況を呈しており、小さな町にも映画館がありました。2本立て、時には3本立てはあたりまえ、今のように座席指定はなく上映ごとの入れ替えもありませんでした。人気スターさんの
作品には立ち見もありました。人の多く集まる場所を霊は好むらしく、映画館などは格好の住みかだったそうです。その霊さん達の中でも序列があり、最上級霊さんが銀幕(スクリーン)を占拠していたそうです。いわゆる主として…当時の町の映画館の支配人(多くはオーナー)さん達はその事を知っているので、朝、出入り口を開錠して、場内への分厚い扉を開けた時、また全上映が終わり閉館する時には、主さんに柏手を打っていたそうです。支配人室(ほとんどが券売窓口の裏)には必ず神棚が祀ってあります。
実際そのシギノ大劇を借りて公演した時、不思議な体験をしました。怪談になるので詳細は省きます。
kirokuya (日曜日, 21 7月 2024 02:52)
追記。
当時の映画館は喫煙OKで、銀幕は煙草の脂で汚れます。で、白く塗り替える職人さんが居たそうです。その職人さんも深夜の出入りの際には、柏手を打っていたそうです。
雛澪 (月曜日, 22 7月 2024 00:41)
うう~私には深夜に白く塗り替える仕事はできそうにないです。
時間帯によって人数が極端に違う場所が霊の好みだと聞いたことがあります。
その時のテレビはボーリング場の霊をやってました。