ポエジー・詩情にあふれたモノクロ映画。それは主演の長塚京三さんの詩的な人となりに由来するのだろうな、と思わせるとても素敵なおじいさんでした。いや76歳という年齢設定は私はおじいさんとは思わないのだけれど。
長いひとり暮らしの中、ある日は塩鮭、別の日は韓国スーパーで買ったキムチを入れた冷麺、またある日は友人にもらったハムを使ったハムエッグなどバラエティに富んだ朝食をきちんと作り、身支度を整え掃除をする規則正しい丁寧な生活。何時間でも観ていられるほど素敵な光景でした。気になる女性に一生懸命レシピを調べてフランス料理を振るまう反面、一人の夕食にカップ麺を作っている場面などもなんだか可愛くてほっこりしました。
ひとり暮らしの穏やかな日常が、気になる女性たちの登場で刺激的なものとなり、しまいには亡き妻の姿まで。登場人物すべてに品があって色気があって知性が感じられます。若い女性と妻とあと突然の闖入者のユーモラスな晩餐の場面もいいし、女の嫉妬丸出しで暴言を吐く妻の幽霊と教え子の女性の対決も思わず笑えて最高でした。どの場面が妄想で夢なのか、すべてがそうなのか。
ご近所さんのワンコのウンコ問題やラスト近くの「敵」の襲撃は、筒井康隆作品っぽい味なのかと思いますが、タイトルにもなっている「敵」なる概念に関して私はあまり興味を引かれなかったのです。あるいは、主人公に夢を見させる原因となっている妄想こそが「敵」だということなのでしょうか。遠くで機関銃の音がする……くらいの距離感の方がふさわしかったような。原作を読んだらまた違った感想を持つんでしょうか。
とにかく、オシャレで知的で品のあるおじいさんを見て自分の内面が豊かになる映画。このポエジーは2024年マイべストの「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」に通じるものがあると思いました。余談ですが、長塚京三さんは早稲田を中退してソルボンヌ大学(パリ大学)に6年も通っていたそうです。
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kirokuya (木曜日, 30 1月 2025 04:01)
モノクロ作品なのに色を感じた。
おそらく、観る年代、性別、おじいちゃんが身近に居るか、その方への想いなどによって、幾通りもの解釈が成り立つ、またそれこそが作者(原作:筒井康隆 監督:吉田大八)の思惑ではないのかと思わせる映画でした。
年相応に訳知り顔、柔和な顔をして生きるも良し、欲望(食、性、趣味嗜好)のままに生きるも良し、何をやってもええんやで!と、少し勇気をいただけたような気がします。
*敵 から逃げながら、また時には闘かって、生の口座残高が 0になるまで、日々凡々と楽しめたらいいな…
長塚京三さんの静かで淡々とした中にも力強さを感じる演技力、共演の女優さん達の色香(特に瀧内公美さん)に酔いながら、身につまされる余韻を引きずりながら、小さな映画館を出ました。さて明日は……
同じ映画館で、期待度MAXの……
*侍タイムスリッパー を観ます。
雛澪 (木曜日, 30 1月 2025 13:06)
女性3人ともすごくよかったですね。私は中でも奥さんが一番お気に入りです。
松尾貴史さんもいい味出してました。
欲望も含めた人間の日常が、とても愛おしく可愛らしく感じられる
京三さんの演技でした。
女性関係のことを奥さんの亡霊? に一喝されるところは
「お天道さま(あるいは亡くなった奥さん)は何でもお見通し」みたいなことを
主人公が思っていて、自分の年甲斐もなくドロドロした部分を恥じている心理が見せた幻影なのかなと思いました。
でも、第三者から見たらそのドロドロした部分も人間的な滑稽さがあって悪くない
そもそも元の人間に品格が備わっていればそんな滑稽さは気にしなくていいし
「お天道さま~」という考え方のできる人は品格も恥の意識もあるんです。
信じられないほどズルいことをできるような人がたまにいますが、
そういうお方はお天道さま(とか広い意味での神様)の存在を知らないから
そういうことができるのです。
この主人公は、それとは真逆の人間、欲望はあっても欲望に溺れない人間だと
思います。
kirokuya (木曜日, 30 1月 2025 15:05)
まさに御意にございます。
信じられないくらいズルい人は確かに居ますね。過去、そういう方に善導を試みたことがありますが、聞く耳持たずだったり、裏切られたりでした。以降、そういう方に出会っても、関わらないようにしています。余程のカリスマ性でもない限り、人は人を変えられないと悟りました。
私のお気に入りは、河合優美さんです。ドンピシャタイプで、今最注目の女優さんです。筆者さん、読者さん含めご存じないと思いますが、往年の若尾文子さんを彷彿とさせるところがあります。
3月20日公開 *悪い夏
4月?日公開 *今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は
はすでに押さえてます(*´-`)
推しです(´ー`).。*・゚゚
kirokuya (木曜日, 30 1月 2025 15:58)
追記
現実か幻想(妄想)か?のシーンはすべて認知症の初期症状の映像化ととらえて観ていました。
私にももうすぐ押し寄せてくるのでしょう(*´σー`)
kirokuya (木曜日, 30 1月 2025 16:21)
河合優美→河合優実
kirokuya (日曜日, 02 2月 2025 02:14)
表題からはずれます。ごめんなさい。
ネタバレのないように…
*侍タイムスリッパー
どんだけ時代劇が好きやねん!な連中が集まって、時代劇好きな私を楽しませてくれました。低予算で作られ、東京での単館上映でスタートし、全国拡大上映。期待度MAXで観に行きました。
山口馬木也さん:
ドラマ*水戸黄門での、幕府転覆を目論む悪のラスボス役、ドラマ*剣客商売での若き剣客役あたりが初見で、しばらくご縁がなかったのですが、ええ感じでキャリアを積み重ねてこられたのだなぁ…殺陣、お見事でした!もちろん現代劇もされてるのでしょうが、わたし的には、時代劇専門役者さんです。
今までとはまた違ったタイムスリップものでした。時代劇?な方も気と脚が向かれたら、ご覧ください。